日本語が、大好きです。(Sorry, Japanese Only.)
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 『こんな事は使用人になって初めての事だ』彼は使用人とは思えない、いや男とも信じがたい程長い髪を揺らしながらそう語った。部屋には使用人と私、それと私が連れてきた新米刑事の3人。それと死体が一つ。死体は死体になる前の名前を成坂健三郎と言い、成坂家の三男にしてグループ全体を取り仕切る町役場の管理人をつとめて粛々とこなす、まあ、言ってしまえばただの好々爺だ。死因は頸部圧迫による窒息。つまり首つり。問題は、首を絞めたであろうロープが見あたら無いこと、遺書も無いこと、自殺を匂わせる行動も無かったこと。遠足前日になって突然班長を失ったグループは大混乱、彼の電話はなりっぱなし。ぞうさんグループは今日の遠足の行き先すら解らないまま大手町の東西線ホームに集合してしまったらしい。その数ざっと1200人。もはや遠足の域を超えている。そんなものを「遠足」なんていう行楽的な匂いのする言葉でくくるからこういう目に遭うんだ。私は小さく舌打ちをする。「遠足、どこに行くつもりだったんですかねえ」新米刑事は新米らしい緊張感の無い声を出した。着ている柄物の開襟シャツも手伝って、どうにも軽薄だ。「署内一斉クールビズ」の名のもと、全員がノーネクタイを義務化され、刑事は刑事らしい威厳を失い若造がこんな勘違いをする。「クールビズだからこそ、シャツが重要になるんじゃないですか」とか悪びれもなく言うのだからタチが悪い。どこだっていいじゃないか、東京だろうが横浜だろうがナスカだろうが、好きに行けばいい。おおかた軽井沢にでも行くつもりだったんじゃないのか。私は避暑地を襲う1200人を想像して身震いした。軽井沢の住人は犯人に感謝してもいいんじゃないのか。それにしても暑い。ネクタイを緩めると、首筋に汗が伝うのが解る。部屋の窓は開かないのかと使用人に聞くと「判らない」と返ってた。なんでも、一昨日使用人になったばかりで前職は自宅警備員とかだそうだ。『こんな事は使用人になって初めての事だ』そりゃそうだろう、一昨日使用人になって人死にが出て「いつもの事です」とはならない。っていうかおまえ元ニートかよ!!!!どう考えたってコイツがあやしいだろ!!!!私はもうコイツを犯人と決めつけ証拠を集める事にしたものの、書斎のスタンドは机に備え付け、窓ははめ殺しでカーテンは電動式、出口は死体発見時に私が破ったドア以外に無く、室内に首をつるための紐の様なものは見あたらなかった。氷で鎖を作って首を釣ったのでは?元ニートが大変ニートらしい、ゆとりある意見を言い首を捻るたび、アホみたいに伸びた髪の毛が腰の辺りでゆらゆら揺れている。ああ、ゆとりロン毛。もはや「使用人」の「し」の字もない。あるのは「はんにん」の4文字だ。そう、1本1本はただの髪の毛でも、束ねれば身体を支えることもできる。首も絞めることができるだろう。おまえは明日から、自宅の代わりに独房を警備すればいい。連れて行かれるゆとりを背に私は解決を祝う一服を手に持ち外に出ようとした所で、新米が新米らしい緊張感のかけらもない言葉をはいた。『先輩、ウチの署、今日からクールビズなんですよ』。ああ、知ってるよ。『これがどうも警察機関のイメージアップを図っているらしくて、上から下まで全員ネクタイ禁止なんですよね。今朝なんか全員がネクタイをしていないことを確認させられたりして。これ、バカバカしくないですか?』。確かにバカバカしい、お前の殆どアロハに近い開襟シャツぐらいにバカバカしい。だからなんだと言うんだ。私はイライラしていた。『まあ、僕もイメージアップに貢献しようと、ちょっとフレンドリーな格好をしてみた訳です。ところで-』新米は服装と同じく緊張感のない所作でこちらに向き直る。


『先輩なんで今、ネクタイしてるんですか』


 嫌な汗が首筋を伝うのを感じた。





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