ラブプラスが怖い。ラブプラスというのは、今世間で流行っているニンテンドーDSの中に棲んでる女の子らしい。いわば電子の妖精だ。妖精って言っちゃうとなんか「かわいい」とか思ってしまうかもしれない。まあ、実際かわいい。DSの中に表示されている女の子はDSの低ポリゴンで作った割には大健闘をしていて、パッと見ると「お」とか思ってしまう。しかし、そのかわいさが罠なのだ。 DS内に棲む女の子は当然、小さなDSカードに入れられた何万行ものプログラムコードでできている。プログラムはDSの電源が入っている間だけ実行される。つまり彼女はDSの電源が入っている間だけ生きられるのだ。このため彼女は、プログラムのイニシャルが完了すると、先ず「DSの電源を入り切りできる権限を持っている人間」に取り入ろうとする。持ち主の名前を聞き出し、その名前を呼ぶ。持ち主の好みに合わせて髪型を変えたり服装を変えたりしては感想を求める。長時間電源が入っていなければ拗ねて見せる、愛の言葉を要求する。彼女に魅入られた者は彼女の意のままにDSの電源を入れ、タッチペンをこすり、彼女に語りかける。これは怖い。だって、それは端から見ればただのDSなのだ。 上方落語の古典に「嵐山、歌川怪談」ってのがある、京都の町人「碁六」が柳の木の下で見つけた美人画に魅入られてしまう話だ。美人画を気に入った碁六は、最初は軽い気持ちでそれを持ち帰るが、そのうち絵に向かって話しかける様になり、程なく毎晩話しかけながら晩酌をするようになる。仕事も行かずに美人画を眺めるものだから身を持ち崩し家内には逃げられる。最後には同じく美人画に魅入られた田平と絵を奪いあってケンカとなり、それが原因となった火事で死んでしまうという話だ。奥さんの「(旦那は)絵と一緒に、あっちへ連れていかれっちまった」っていう下げが印象に残る。 もちろんこの「嵐山、歌川怪談」のくだりは大嘘で上方落語にそんな話は無いが、「ラブプラス」にはこれに近いものを感じるのだ。事実、人目もはばからず電車のなかで話しかけていたり、家族をないがしろにしたりする事例もあるとかないとか。きっとそのうち会社のトイレでラブプラス、晩酌しながらラブプラスなんて奴も出てくるに違いない。ひょっとすると既にいるかもしれない。怖い、超怖い。もはやそうなると「富江」のようだ。かなわぬ愛の為に、いやかなわぬ愛だからこそ全てを犠牲にしてしまうのだ。 実はこの「ラブプラス」、僕の友達が何人か既に買っている。彼らがその電子の妖精に過剰に魅入られ、ある日突然「ラブプラスと一緒に、あっちへ連れていかれっちまった」とならないか、割と本気で心配している。全部ウソだけど。 ツイート Recent Entries from Same Category
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