近所の本屋さんで平積みされていたので読んでみた。久しぶりにSF。っていうか、星新一以来なのでひどく久しぶり。短編集なので、それぞれに短く感想を。 ・冲方丁/マルドゥック・スクランブル104 会社の不正を暴いた為に命を狙われたOLを、特殊な能力を持った二人が守る話。短い中でちゃんと展開する話を書いていて、この本の中では一番「面白い」と思った。特に後半、『OL一人を合法的に殺す為に、リアルタイムにビルを買い取って軍事演習を始める』とかいう下りの発想は大好きだ。 ・新城カズマ/アンジー・クレーマーにさよならを 『15×24』で話題になった人ですね。「情報の共有化」が常識になった事によって、個人情報にあまり価値が無くなった世代を描いたSF。ちょっと展開が突飛。話は面白い ・桜坂洋/エキストラ・ラウンド ネットワーク格闘ゲームの大会トロフィーが盗まれた事件を、大学を辞めて実家で引きこもりしている少年が、ネットゲーム上で解決をしようとする話。というよりは、リアルの人格とネット上の人格を乖離させようとする価値観と、それでも発生してしまう接点。更にはネットゲームに身を置く人の生き様みたいなものを描いてるんだと思う。実際にネットゲームをやっていた身としてはかなり面白い。 ・本木柾木/デイドリーム、鳥のように SFっていうか、ミステリですよね。超能力というか、「他には無いちょっとした不思議」的な物って、最近のミステリでも結構あるので、このレベルではあまり気にならないですね。 ・西島大介/Atmosphere 「凹村戦争」の人。6ページのマンガなんだけど、マンガで6ページだと、ちょっと伝わりにくいなあ。もうすこし、あとすこし。 ・海猫沢めろん/アリスの心臓 4次元とか5次元の話。状況というか背景はSFなんだけど、なんていうか、文体からぶっ飛んでいて難解。 ・長谷敏司/地には豊穣 ナノマシーンによるシナプスの偽装によって、経験の正確伝播が可能になった世界で、文化はどのように守られるべきか、そもそも文化はどういう風に人に影響を与えているのか。を、「日本になじみの無い日本人」と「日本文化を守りたいと思うアメリカ人」のキャラクタを用いて描いている。「日本になじめない日本人」を描く事で、文化は何故必要なのかの疑問と答えを引き出しているところがすごい。 ・秋山瑞人/おれはミサイル 主人公は「空を飛び続ける地上を知らない戦闘機」っていういきなりな設定。その戦闘機が、突然ミサイルと会話し、価値観の違いに混乱していく話。元々突飛もない内容で、共感とかは全くないんだけど、雰囲気が素晴らしいと思った。絵が綺麗だ。 おもしろいなあっておもったのが、僕の知っている昔のSFって「こういう技術があったらおもしろい」って世界観を描いていたんだけど、今のSFは「この技術によって、価値観はこう変わるかもしれない」っていうのを描いている。フィクションだからその根幹となるテクノロジーは眉唾ものではあるんだけど、その一個の大嘘によって人がどう変わっていくかっていう部分にはリアリティを感じる。 最後には後書きとして、SFのここ20年ぐらいを振り返った感想があって、これがおもしろい。ミステリーが、森博嗣、綾辻行人を始め、オタク的なエッセンスを取り入れてきた中で、SFはここ10年でやっと、ライトノベル作家やオタク的な要素を入れて盛り上がってきたよ。とかそういう内容(つまりその前は相当キツかったらしい)。ゼロ年代は終わった訳ですが、次の十年がSFにとってもっといい10年になるといいなあと思った。 ところで、一番おもしろかった冲方丁のマルドゥック・スクランブルを買おうと思って近所の本屋に行ったら、ハヤカワSFの棚は1段も無かった(マルドゥック・スクランブルも無かった)。ハーレクイン文庫未満。次の十年がいい十年でありますように。。。 ツイート Recent Entries from Same Category
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